二輪自動車整備士 学習内容

【三級二輪】基礎自動車工学

二輪自動車整備士の資格試験で、まず最初に学習するのは「基礎自動車工学」です。自動車(四輪)の基本的な構造、材料、機械要素、基礎的な原理・法則などの全般を学びます。

オートバイなのになぜ自動車?と思われるかもしれませんが、これは二輪・四輪を問わず、整備士資格に必要な共通項目で、前提知識となります。

実はこの「基礎自動車工学」、【三級二輪自動車整備士】の資格試験の中で、「一番難しい」「とっつきにくい」と言われています。

それは一体なぜなのか、テキストの順番通りに学習内容を紹介しつつ、理由を書いてみました。

第1章「自動車の概要」

第1章「自動車の概要」は、自動車の歴史や分類を簡単に学習します。

第2章「自動車の構造」

この章では自動車の全体的な構造(エンジン、サスペンション、ホイール、ブレーキ、電気装置など)を学習します。

自動車(四輪)独自の仕組みをよく知らない

自分もそうですが、普段オートバイばかりいじっている人は、四輪独自の機構(システム)に詳しくありません。

たとえば動力伝達装置。クラッチ、トランスミッション。用語は同じでも、オートバイとは形状や構造が大きく異なり、イメージしづらいです。プロペラシャフト、ファイナルギアやディファレンシャルなど四輪特有の機構ばかりで、実際の動きはYoutubeなどの動画で確認するしかありません。

アクスルやサスペンション(懸架方式)、ステアリング、ホイール・アライメントなども四輪独自のものです。トーイン・トーアウト、キャンバ、キングピン傾角など、もはや暗号に近い専門用語も出てきます(笑)。

その他フレームやボデー、エアバッグやシフトロックなどの安全装置も四輪独特のシステム。

オートバイとクルマでは、そもそもの用途(居住性や快適性)が違うので、いろいろ異なるのは必然ですが、でも相当に別世界。

オートバイと同じところなんて、エンジンの原理原則や、一部の電気装置(灯火やメーター)くらいではないでしょうか。

「ジーゼル・エンジン」すら知らない

これ一般常識だったら本当に申し訳ないんですが、この整備士講習を受けるまで、「ジーゼル・エンジン」のシステムをまったく知りませんでした。

普通のガソリン・エンジンは、「混合気を圧縮して、プラグで点火して~」という動作になりますが、

ジーゼル・エンジンはなんと!!!
圧縮するのは【空気】!火種はない!燃料自らが燃える!つまりプラグも必要ない!!という驚きのシステムだったのです。

そのエンジンの構造上、エンジンを異常に大きくできるという長所もありますが(船など)、反面、(点火装置が無いので)吸入空気の温度が低いと着火しにくい、予熱装置が必須という特性があります。

これ自分的には相当驚きました。「エンジンはプラグで点火して混合気を爆発させるもの」という強烈な思い込みがあったため、しばらくの間、「プラグがない」という事実を受け入れることができませんでした。

他の受講生の皆さんも平然と聞いているように見えましたが、心の中で「そんなバカな!」と思っていたのは2人や3人ではないと思います。

オートバイに詳しいなら、クルマも当然詳しいだろうと思われるかもしれませんが、実際のところ、こんな感じなのです(汗;)。

第3章「自動車の材料」

この章は、「自動車は何でできてるの?どんな材料が使われてるの?」という話しです。

結論からいえば、鉄鋼、非鉄金属(銅やアルミ)、焼結合金、非金属(ゴムやガラス、合成樹脂、複合材、塗料など)からできています。

が、ここで学ぶのはそういう単純な話ではありません。その分類と実際の用途を学びます。

「鉄鋼」や「非鉄金属」の分類が細かすぎる件

最難関はおそらく「鉄鋼」ですが、「鉄鋼」は「鋳鉄(ちゅうてつ)」と「鋼」に分類され、「鋳鉄」は「普通鋳鉄」と「特殊鋳鉄」に分類され、さらに「特殊鋳鉄」は「球状黒煙鋳鉄」と「合金鋳鉄」に分類され・・・(以下略)。

次いで「鋼」は「普通鋼(炭素鋼)」と「特殊鋼(合金鋼)」に分類され、「普通鋼」は「軟鋼」と「硬鋼」に分類され、各種の圧延鋼材が作られ・・・(以下略)。

「非鉄金属」は「銅」や「アルミ」や「亜鉛」とその「合金」があり・・・(以下略)。

専門用語と漢字だらけです(汗;)。

結局、何が重要かというと、「どの部品が何でできているか」ということで、シリンダヘッドは何でできてますか?シリンダは?ピストンは?ピストンリングは?クランクシャフトは?「鋳鉄」ですか?「鋼」ですか?「アルミ」ですか?と、そういう話になります。

もはや説明不要の「丸暗記」箇所です。

第4章「自動車の機械要素」

この章では、各種ねじ、ナット、ワッシャー、スプリング、ベアリング、ギヤ、ベルト、チェーンなどの小物類全般を学習します。

ねじの件

ねじ好きな方は多いと思います。「M16×1.5」という例のやつです(笑)。

少し解説してみると、「M」というのは「メートルねじ」(自動車で一般に使われる、ねじヤマの角度は60°)のことで、「並目ねじ」と「細目ねじ」に分類され、「細目ねじ」は色々ピッチがあるので、直径の後ろに、ピッチをミリ表記することになっています。

つまり「M16×1.5」とは、直径16mmの「細目ねじ」で、ピッチは1.5mmです。ということです。

ねじは種類が多いですが、特に難しいことはありません。六角ボルト、キャッスルナット、セルフロッキングナットなど名称はともかく、普段使っているものばかりなので、馴染み深いです。

ベアリングの件

ベアリングになると少し難しくなります。コンロッドやクランクシャフトなどに使われる「プレーンベアリング」、ホイールなどに使われる「ローリングベアリング」。

「ラジアル方向」「スラスト方向」「アンギュラベアリング」などの専門用語が出てきます。

これも何が聞きたいかというと、「どのベアリングがどの部分に使用されているのか」。これまた説明不要の「丸暗記」箇所となります。

「凶悪な」ギヤの件

「ギヤ」も同じ感じですが、テキストの絵が更に凶悪な感じになります(笑)。

第6章「基礎的な原理・法則」

テキストに謎の計算式が大量に出現する、いわゆる「計算問題」の章となります。

間違いなく、受講生が全員ドン引きする章です。

突然現れる多数の計算式

たとえば、「偶力」の計算。「400Nの力を加えて、ナットを180N・mのトルクで締め付ける時、必要なトルクレンチの長さは?」という【トルクレンチ問題】に使われます。

T[N・m] = F[N]×r[m] + F[N]×r[m] = F[N]×d[m]

それから「加速度」の計算。「初速36km/hの自動車が10秒後に72km/hとなった場合の加速度」を求める時に使用されます。

a[m/s2] = (V2[m/s]-V1[m/s])÷t[s]

その他「力のモーメント」「平均ピストン速度」「仕事率」「パスカルの原理」など同じような難解な計算式が、次から次へと出てきます。

本当はどれもこれもすごい簡単な話で、逆に言えば「なんでこんな難解な計算式にするのだろう?」という感じです。

実際は恐れるに足りません。と断言しておきます(笑)。

これがオームの法則!逆数の和の逆数って!?

そしてここからが、「基礎自動車工学」の一番難しい箇所だと思います。

電気、電流・・・からの

「オームの法則」。

電流(I)、電圧(V)、電気抵抗(R)には、一定の関係があり、電流は電圧に比例し、導線の電気抵抗に比例する。これをオームの法則という。

I = V÷R
V = I×R
R = V÷I

つまりオームの法則は、(回路図の)電流、電圧、電気抵抗のいずれかを求めるための公式です。

出題形式としては、回路図に複数の抵抗が含まれていて、回路全体の抵抗(=合成抵抗)を求めるケースが多いです。

直列接続なら単純な足し算で済みますが、並列接続になってくると計算式が複雑になってきます

テキストの説明書きをそのまま書くと

並列接続した場合の合成抵抗は、接続された抵抗値の逆数の和の逆数となる

ということです。

もはや日本語がわかりませんね(笑)

ポイントは「計算式を覚えて慣れてしまうこと」。過去問などで繰返し問題を解いてみることです。

実はオームの法則も、頭を抱えて悩んでしまうほど、難しいものではありません。

第7章「自動車の諸元」

最後のこの章は、ひたすら排気量や圧縮比を計算します。

ほぼ毎年出題されるので、必ずおさえなくてはならない計算問題となります。

排気量と圧縮比の計算が最後の課題!

たとえば「燃焼室容積が50cm3、排気量が400cm3の時の圧縮比は?」。

容積的には1:8ですが、燃焼室容積を考慮するので1:9(8+1)、正解の圧縮比は「9」となります。

他は「シリンダ内径75mm、ピストンのストローク82mmの1シリンダの排気量は?」。

公式(計算式)で1シリンダの排気量が出せるので、あとはシリンダの数を間違えなければ大丈夫です。

シリンダは1個なのか?2個なのか?4個なのか?・・・バカみたいですが結構間違えたのは秘密です(汗;)。

結論~「基礎自動車工学」の何が難しいのか

以上、ひととおりの学習範囲を見てきましたが、「基礎自動車工学」が難解な理由をまとめると、以下の通りとなります。

  • 自動車特有の機構に馴染みがない
  • 専門用語が意外に多い
  • 分類が細かい
  • 丸暗記項目が意外に多い
  • 計算問題が避けて通れない

結論としてはもう、最悪意味が分からなくても、覚えてしまうことだと思います。

「なんでこの計算式になるんだろう?」と考えるのではなく、「ここで使う計算式はこれなんだ」で済ませてしまうこと。ひとつひとつの用語や動きを完全に理解しようというのではなく、「こういうものなんだ」と割り切ることが重要かと思いました。でないとキリがない。

試験を通過して、実務で必要なところは、あとでゆっくり勉強すればいいのです。

本試験での出題(令和4年 第106回 三級二輪自動車)

本試験で、この「自動車基礎工学」から出題されたものは以下の通りです。

「自動車基礎工学」(計5問)

  • 鋳鉄と鋼
  • 圧力の単位(Pa=パスカル)
  • ベアリングの種類
  • オームの法則
  • 圧縮比の計算

 

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